福岡県立城南高等学校

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令和3年度 創立記念式典

 創立記念式典の「校長式辞」を以下に掲載します。
 
 

第五十八回創立記念式典式辞      令和年十一月一日

 

秋風の吹く爽やかな今日の佳き日、城南高等学校創立58周年を祝福できますことは誠に喜ばしく、心から感謝申し上げます。そして、本日ここに城南生諸君並びに本校教職員とともに、この時間を共有できますことに大きな幸せを感じております。

本校は、昭和39年、全日制普通科高校として、その歴史を刻み始め、地域の進学校として30年間の磐石の発展の基礎の上、平成7年に「城南ドリカムプラン」をスタートさせ、翌年、普通科理数コースを設置、平成22年には文部科学省スーパーサイエンスハイスクール支援事業に指定され、爾来、キャリア教育のパイオニアとして時代の最先端を走ってまいりました。その長い歴史の中で、時代は大きく変わりましたが、常に先を読み行動する「ドリカムマインド」とSSHをはじめとする様々な取組を通して培われる「未来を切り拓く力」をもって、広く社会への貢献を志す有為な人材の育成に力を尽くしてきたところです。

さて、文化の秋です。何か文化的なことをと思っていたところ、最近試写会に当たり、映画を見に行きました。夕方6時半の開演だったので、慌てて夕食を掻き込み、会場に入りました。その作品は前評判もよく、見ごたえのある映画でした。最近、年を取ったせいか、食後は物凄い睡魔が襲ってきます。案の定、その時も眠くなったのですが、それでも頑張って見ていると、隣の妻から突かれました。『寝てないのに』という素振りをすると、『頭が傾いた』と身振りで返してきました。「頭が傾く=寝ている」という決めつけに憤慨しつつ、怒りで眠気も覚めて、結果的に最後まで見ることができ、複雑な心境になりました。

ちなみに、「傾く(かたむく)」という漢字には、別の読み方があります。「かぶく」です。「かぶ」とは頭のことで、「かぶく」とは頭をかたむけること。頭をぐるりと回して見得を切るあの「歌舞伎」の語源でもあります。ということで、今日は歌舞伎の話です。

ところで、歌舞伎俳優と言われて、頭に浮かべるのは誰でしょう。尾上松也、尾上右近、市川染五郎、松本幸四郎、あるいは市川海老蔵あたりでしょうか。いずれもテレビなどで、よく見かける人たちで、中には「ジャニーズですか」と言いたくなるような歌舞伎が語源の所謂「色男」揃いです。

これも歌舞伎用語ですが、「千両役者」という言葉があります。江戸時代の超売れっ子の歌舞伎役者が千両、現在でいえば一億円を超えるようなお金を稼いだことから、超一流の実力と人気を兼ね備えた俳優や年俸が話題となるスポーツ選手などを言うときに使われます。ちなみにロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は、今季の推定年俸3億3千万円ですから、すでに立派な千両役者であり、すぐにでも万両役者になりそうな勢いです。

さて、現在歌舞伎界の千両役者は誰でしょう。2004年、国税庁が公表した最後の高額納税者名簿、いわゆる長者番付によれば、歌舞伎界では、市川海老蔵がトップで、一億四千百万円です。それに続くのが松本白鸚(はくおう)で一億千八百万円です。

他にも売れっ子の歌舞伎俳優として、大河ドラマ『いだてん』の中村勘九郎や中村獅童。松たか子の兄で俳優としても数え切れないほどの作品にも出ている松本幸四郎。昨年社会的なブームにもなった日曜劇場『半沢直樹』に出演していた香川照之、市川猿之助、片岡愛之助があげられるでしょう。

歌舞伎は江戸時代から400年以上続く伝統芸能です。東京銀座にある「歌舞伎座」を中心とした歌舞伎の興行も盛んに行われており、歌舞伎俳優の芸能界での活躍が歌舞伎の人気にも繋がっています。

多くの伝統芸能が存続の危機にある中、歌舞伎はなぜ、これほど栄えているのでしょうか。

それは、歌舞伎には3つの力があるからだと考えます。一つ目は、「時間をかけて人を育てる力」です。歌舞伎俳優の初舞台の年齢は2歳から4歳。生涯現役で、今までの最高齢は94歳。物覚え付いた時から死ぬまで歌舞伎をやることになります。また、歌舞伎俳優は名跡、代々受け継がれてきた歌舞伎俳優としての名前を、芸の上達にしたがって段々と上の名跡に上がっていきます。ただ、一番上の大名跡に上がるのは並大抵なことではありません。たとえば、市川一門の場合、海老蔵から團十郎になるのに、50年から80年かかると言われています。人生の半分以上を費やしてやっと次の段階へ進むこの仕組みで、真に実力のある後継者が育っていきます。

二つ目は「新しいものを取り入れる力」です。古臭い演目を未だにやっているという印象を持っている人がいるかもしれませんが、歌舞伎は世情を最も反映した観劇の一つです。歌舞伎は人気商売ですので、その時代に流行した話を取り入れて、観客を集めます。それが長いことお客さんに気に入られて、繰り返し演じられ続けた結果として、古いものが残っているのです。現在は、市川猿之助が始めたスーパー歌舞伎で、漫画『ワンピース』の歌舞伎バージョンが演じられており、そのうち『鬼滅の刃』が演じられる日が来るのかもしれません。また、優れた新しい才能を取り入れることにも門戸が開かれており、国立劇場に付属する伝統芸能伝承者養成所で2年間修業するか、歌舞伎俳優に弟子入りをして相当な努力をすれば、外部から歌舞伎俳優になることが可能です。坂東玉三郎や片岡愛之助は、その代表例です。

三つ目は「優れた作品を創り出す力」です。「河竹黙阿弥」という歌舞伎作家がいます。幕末から明治にかけて活躍し、50年の間で360もの作品を残しています。先日、今年の文化勲章が発表され、歌舞伎俳優の七代目尾上菊五郎が受賞することになりました。菊五郎の十八番(おはこ)、これも歌舞伎が起源の言葉ですが、最も特異な演目は1000回は演じたという『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』で、これも「河竹黙阿弥」の代表作です。「知らざあ言って聞かせやしょう」という有名なフレーズで始まる一場面ですが、言葉の背景を調べてみると、驚くほどの教養と工夫が詰まっており、現代英語の基礎を築いたと言われるイギリスの劇作家ウィリアム・シェークスピアに匹敵すると、私は思っています。

そこで、今日はその触りをちょっとだけ、見てみましょう。教室掲示のQRコードを読み取って「歌舞伎のセリフ」を表示してください。

 

場面の説明です。舞台は鎌倉。盗賊「白浪五人男」の一人、弁天小僧菊之助が、綺麗なお嬢様に変装して付き人とともに、浜松屋という呉服店にやってきます。二人は浜松屋に難癖をつけ、金をゆすろうとしますが、横で見ていた侍に弁天小僧の女装を見破られてしまいます。「バレちまってはしょうがない!」と開き直り、ここで有名な弁天小僧のセリフが始まります。NHK『にほんごであそぼ』より、中村勘九郎の演技で聞いてみましょう。

https://www2.nhk.or.jp/school/movie/bangumi.cgi?das_id=D0005150303_00000#in=28&out=89 00:28-01:30

「知らざあ言って聞かせやしょう

浜の真砂と五右衛門が、

歌に残こした盗人の、

種は尽きねえ七里が浜、

その白浪の夜働き、

以前を言やァ江の島で

年季勤めの児ヶ淵、

百味講で散らす蒔銭を

当に小皿の一文子、

百が二百と賽銭の

くすね銭せえだんだんに

悪事はのぼる上の宮、

(中略)

名さえ由縁の弁天小僧

菊之助たァおれがことだ」  

内容は、「浜辺の砂がなくなることがないように、盗人もこの世からいなくならない。今は夜に盗みを働いているが、昔は江ノ島で坊さんの付き人として働いていた。旅の客が落としていくお金を当てに小額の賭けをしていたが、賽銭からくすねる金もだんだん大きくなり、上の宮神社の階段をのぼるように悪事を重ねる。弁天様に縁のある名前を持つ『菊之助』とは、私のことだ」という意味です。

注目すべきは、大泥棒『石川五右衛門』の辞世の短歌を引用しているところ。そして、無くならない例えとして「砂」、泥棒を意味する「白浪」、弁天様を祀る「江の島」、稚児の叶わぬ恋の伝説がある「稚児ヶ渕」が海に関連する縁語となっています。また、旅の客がばらまく「蒔金」、盗みの対象の「賽銭」、だんだん増えてくる「くすね銭」、これらは全てお金に関連する言葉です。さらに、その金が「一文」、「百」、「二百」と悪事がひどくなるのを数字で表しています。そして、悪事が積み重なる様子を上の宮神社の階段を登ることに例えています。

このような豊富な背景知識と気の利いた遊び心の詰まったセリフが七五調で書かれているので、言葉に出して読めば読むほど味が出てきます。「河竹黙阿弥」が生きていたら、すぐにでも弟子入りしたいくらいです。

ということで、歌舞伎はなぜ、これほど栄えているか。それは、「時間をかけて人を育てる力」、「新しいものを取り入れる力」、「優れた作品を創り出す力」の三つの力、言い換えると「未来へつなぐ力」が充実しているのに他なりません。そう考えると、これから60周年、やがては100周年を超えて、伝統をつなごうとしている城南高校が、見習うべき点が数多くあると考えます。「時間をかけて人を育てる力」は高校生活全体をかけて行ない、卒業後もその効果が続くドリカムプランであり、「新しいものを取り入れる力」は「先駆ける城南」に必要な「未来を切り拓く力」のこと。そして、「優れた作品を創り出す力」は、本校教育を受けた城南生が、それぞれの優れた台本、つまり人生のストーリーを紡ぐ「たくましく生きる力」を持っていることを意味しています。

そこで、チャレンジャーの私としては、決して優れてはいませんが、何か作品を創り出してみようということで、憧れの黙阿弥先生に敬意を払い、セリフを考えてみました。

ということで、本日は、大根役者の私の代わりに、本校が誇る演劇部の千両役者に登場願います。では、始めます。

「どこの馬の骨か、知るものか」

「知らざあ言って聞かせやしょう

朝を歌うと 朝風(あさかぜ)

歌詞(かし)につづった 城南の

南にそびえし 油山(あぶらやま)

その濃いみどり 背景に

紺碧空(こんぺきぞら)に はためくは

(かぶと)いただく えんじ旗(ばた)

旗に誓いし 校訓の

進取(しんしゅ) 明朗(めいろう) 端正(たんせい)

実現せんと 船を出す

荒江(あらえ)の寄せ波 乗り越えて

夕日に映()える 玄海(げんかい)

赤く見ゆるは 内にある

熱き炎か 城南火山

火山の情熱 うちに秘め

新しきもの 挑(いど)むため

ドリカム航路(こうろ) 明日(あす)も行く

それから旅を 積み重ね

SSHも 積み重ね

一ニの三と 進みゆく

名声のぼる 茶山(ちゃやま)にて

バッグ片手に 未来を拓(ひら)

名さえ由縁(ゆかり)の 先駆(さきがけ)小僧(こぞう)

『城南ジョー』たァ おれがことだ」      (よっ、先駆屋!)



演じてくれた生徒に、拍手をお願いします。

私なりの工夫としては、辞世の短歌の代わりに城南高校校歌の世界観をベースにしたこと、油山・荒江・玄海・茶山という学校周辺の地名を取り入れたこと、城南火山・ドリカム・SSHという特徴的な出来事を織り込んだこと、そして城南バッグをもった我らがヒーロー「城南ジョー」くんを登場させたことですが、詳しくは後で学校HPの解説を見てください。ちなみにタイトルは、『先駆小僧玄海荒波』で、作者は私、坂本ですが、ペンネームをつけさせていただくことにしました。尊敬する黙阿弥先生に敬意を払って、「坂元の木阿弥」です。

さて、コロナ禍の影響で歌舞伎公演も行なわれず、博多の風物詩、歌舞伎俳優が博多川を舟で進んで博多座に入る「船乗り込み」が見られないのが残念ですが、最後に、城南歌壇の教員の締め切りが本日でしたので、短歌を一首詠んで締めたいと思います。

 


船漕ぎて 乗り込む役者は 千両か

寄せる年波 抗う大根


船を漕いで居眠りをしながらも、年をとることに抵抗しようとする自分自身を励ましながら、生徒諸君が、城南高校の伝統を受け継ぐ「千両役者」とならんことを祈念して、式辞とします。


 

<『先駆小僧玄海荒波』解説>

・城南高校歌詞の参考箇所

朝風に朝を歌う 油山今日も濃みどり 紺碧の空 夕映え 玄海の

・兜いただくえんじ旗

城南高校校旗 黒田家の家宝であるかぶとをかたどった校章が中央にある。

・進取 明朗 端正

城南高校校訓。進取の気象を有し端正にして明朗なる校風の発展と継承を図る。

・荒江

学校の北の地名 「江」という文字は昔、海が近かったことを示している。

・城南火山

城南高校第二代樗木昇一校長が、城南高校の活躍を「城南火山」と称した。

・ドリカム

平成7年にスタートしたキャリア教育「城南ドリカムプラン」のこと

・SSH

平成22年、文部科学省から指定を受けたスーパーサイエンスハイスクール支援事業

・一二の三と進みゆく

SSHの一期、二期を終え、令和2年度より第三期に入っている。

・茶山

城南高校の所在地。黒田の殿様が狩りの休憩にお茶を飲んだことから茶山となった。

・未来を拓く

城南高校教育目標で、城南高校でつけたい力、「未来を切り拓く力」を参照

・バッグ片手に

城南生必携の城南バッグのこと

・先駆け小僧

城南高校の目指す生徒像で求められる行動として、常に先を読みことがあるが、それを端的に表したスローガン「先駆ける城南」を参照

・城南ジョー

城南高校のマスコットキャラクターのひとり、「ジョー」君。もう一人は「みなみ」ちゃん

 

<短歌解説>

・船漕ぎて

実際に「船を漕ぐ」と居眠りするという意味の「船を漕ぐ」をかけている。

・乗り込む役者

「博多船乗り込み」のこと。

・寄せる年波

船に波が寄せるのと年を取ることをかけている。

・大根

大根役者、演技が下手な役者のこと。千両役者の反対語

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